【新帝国時代 第4部「収奪」の構図(5)】 転職先の業務内容まで把握していたサムスン電子 2013.6.7 08:45 (1/3ページ)[知的財産] 産経新聞 日本企業からヘッドハンティングで移籍した韓国・サムスン電子から、中国企業に再転職した日本人技術者にあるメッセージが届いた。昨年秋のことだった。 「あなたは離職時の誓約に違反している。当社(サムスン)に不利益が生じていると判断した場合、あらゆる法的措置を検討する」 サムスンが指摘したのは退職時に一筆取り交わした同業他社への再就職をしないという「競業避止義務規定」だった。この技術者は、半導体の品質管理システムの開発を取りまとめる責任者だった。転職先の中国企業での仕事は半導体の基盤設計の業務管理であり、サムスンでの仕事とは違うと本人は判断したが、サムスンの受け止めは違ったようだ。 「サムスンは転職先の業務内容まで把握している様子だった」 技術者はサムスンの情報流出に対するリスク管理意識の高さを思い知った。 取材の過程で、連絡を取ったサムスンの現役、退職社員は20人近くに上ったが、現役では9割、元社員でも半数が取材の申し入れを断ってきた。 サムスンの系列企業で、半導体開発チームのとりまとめ役として数年働き、今年退社した40代の男性も同様だった。 「取材はご遠慮いただけませんか。再就職に影響が出かねませんので」 サムスンについて話を聞かせてほしいと取材の趣旨を告げると、電話の向こうからはすぐに断りの返事が返ってきた。 男性は日本の私立大学の大学院で電子工学系の修士号を取得し、現在、日本国内と中国、欧州の技術メーカーへの技術開発職を求めて就職活動中だった。 サムスングループの中核企業の1つ、サムスン物産の元常務はこう話す。 「サムスンは知的財産の損失に極めて敏感だ。現役はもちろん退職者の動きも細かく追っている。まるで情報機関のようだ」 技術者を獲得すれば、技術がついてくる-。技術の価値を認識しているからこそ厳しい管理態勢を敷く。 液晶や携帯電話などデジタル家電の日本人技術者を次々と引き抜いていったサムスン。今や韓国の国内総生産(GDP)の2割超に達する巨大エレクトロニクスメーカーにのし上がった。韓国経済の成長と反比例するように、日本の技術者のヘッドハンティングは減りつつある。
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