試用期間の制度や給与について
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「試用期間」って、どんな制度?
試用期間とは
皆さんが働き始めるときに渡されねばならない労働条件通知書には、「試用期間」について記載はありませんでしたか?「試用期間」とは、簡単に言ってしまえば、見習い期間です。見習い期間を経て、正式に採用(本採用)するかを決めるという制度になります。
重要なのは、試用期間中であっても、既に労働契約は成立しているということです。例えば、契約期間の定めがない労働契約(一般的な正社員の契約形態)として採用した場合、試用期間付であっても、すでに契約期間の定めのない労働契約は成立しています。
試用期間があることの意味は、使用者が試用期間中に労働者の適格性を判断して、契約を解消する権利を持っている点だけです。
試用期間中の労働者の権利は?
試用期間中であっても、基本的には、本採用後と労働者が持っている権利は同じです。特に契約等で制限されていない限り、給与・労働時間・休日なども試用期間前後で当然には差異は生じません。よくあるトラブルは、試用期間中に労災保険や健康保険など社会保険に加入させてもらえないというものです(※1)。
法的には、試用期間中であっても、労災についても全く同じように扱われますので、こういった使用者の対応は違法です。試用期間中であっても、加入させてもらえるということは、知っておきましょう。とはいえ、試用期間中は、正式採用するかを見られている見習い期間です。こういった要求は、労働者からは言い出しにくいのが悩みですが、遡及的に加入できる場合も多いので、後からでも対応してもらえることもあります。
試用期間中の給与は安くて当然?
試用期間中の給与について、本採用前よりも低い金額設定になっている場合があります。ただし、そのような対応が認められるために、試用期間中の給与額が本採用後よりも低くなることについて、使用者と労働者との間で合意が必要です。また、この試用期間中の賃金額について、使用者は労働者に対して合意内容を記載した書面を交付する義務も負います。
こういった合意もなく、一方的に使用者が試用期間中の給与額を引き下げることはできませんので、ご注意ください。
試用期間満了時には自由に契約解消できる?
「試用期間であれば自由に解雇(本採用拒否)できる」と理解している方が多くいますが、間違いです。試用期間満了時であっても、既に労働契約は成立していますので、使用者が自由に解雇(本採用拒否)できるわけではありません。
そもそも試用期間が設定される理由は、採用した時点では、使用者は労働者の勤務態度、能力などが適切に判断できないため、実際に勤務を開始した後の態度を見て決定する機会を与える点にあります。ですから、使用者が試用期間満了後に本採用を拒否する場合には、このような試用期間を設定した目的に照らして、正当な理由が求められるのです。
とはいえ、試用期間途中の解雇と比較すれば、やや解雇が認められやすい(正当な理由が判断され易い)のも事実でしょう。この問題のリーディングケースとなっているのは三菱樹脂事件最高裁判決(最大判昭和48年12月12日判決)においては、以下の通り判断しています。
「法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇用契約の締結に際しては、企業者が一般的には個々の労働者に対し社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上記解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許されると解するのが相当である。」
この三菱樹脂事件最高裁判決に照らして考えると、少なくとも解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合に限って留保解約権行使(=本採用拒否)が有効となるにすぎません。
試用期間途中の本採用拒否は注意!
また、試用期間の途中で早々に見切りをつけて労働者を解雇する場合には、より厳格に解雇の合理性が判断される可能性(解雇が無効になりやすい)があります。 労働者としても、契約上の残りの試用期間で自分の能力をアピールすれば良いと考えていたのに、使用者が約束している試用期間途中で能力不足等の理由で解雇を認めてしまっては、期間を明示して試用期間を設定した意味がなくなるからです。
具体的な裁判例では、試用期間途中での解雇において、試用期間満了時まで日数を残しており、その期間に使用者の求める水準に達した可能性があることを理由に解雇を無効とする裁判例も多くあります(ニュース証券事件:東京高裁平成21年9月15日判決、医療法人財団健和会事件:東京地裁平成21年10月15日判決、オープンタイドジャパン事件:東京地裁平成14年8月9日判決)。
試用期間の延長
試用期間の長さは、働き始めるときに使用者と労働者の間で明確に期間を特定して合意(約束)されています。しかも、その試用期間途中、労働者は、お試し期間が終了したときに採用されないかもしれないという不安定な立場に置かれます。ですから、使用者の一方的な都合で、試用期間の延長が認められないというのが原則です。とはいえ、例外的に、試用期間の延長は認められるケースもありますが、それにも合理的な理由が必要です。
例えば、労働契約書や就業規則など労働者も把握できるような形で試用期間を延長する可能性があることと、延長する理由などが明確に記載されている場合です。使用者が一方的に約束を反故にして、試用期間を自由に延長できるわけではありませんので、注意が必要です。また、仮に試用期間の延長が認められるとしても、せいぜい延長は1回だけでしょう。それ以上に、繰り返し試用期間を延長しなければ本採用するかどうか判断ができないような理由は、通常考えられないからです。
不当に試用期間を延長される扱いを受けてしまった場合、本来は初回の試用期間満了時に本採用された地位にあることを主張できます。具体的には、試用期間中の給与が低く設定されている場合などは本採用後の給与を主張できることになりますし、違法に延長された試用期間満了時に本採用拒否(解雇)された場合には、通常の解雇と同様の厳しい(解雇が無効になりやすい)判断基準で解雇が判断されます。
※1:労災保険は1人でも労働者を雇用する事業所は、基本的に加入義務があります。社会保険は以下の条件を全て満たす場合には加入義務があります。
・週20時間以上の労働時間があること
・月額賃金が8.8万円以上であること(年収約106万円以上)
・雇用期間の見込みが1年以上であること
・従業員501人以上の事業所であること(ただし従業員500人以下の会社でも労使合意があれば会社単位で社会保険に加入可)
・学生でないこと