内定取り消しの理由と違法な取り消しの対処方法について

どのような場合、内定取消しとなりますか? 違法な内定取消しがなされた場合、どのような請求ができますか?

採用内定の法的性質

採用内定の法的性質について定めた法令はありません。 この点について、大日本印刷事件(最二判S54.7.20民集33巻5号582頁)において、裁判所は、採用内定の実態は多様であるため、その法的性質について判断するにあたっては、具体的な事実関係に即して検討する必要があると述べました。その上で、当該事案では、採用内定通知のほかに労働契約締結のための特別の意思表示をすることが予定されていなかったので、企業の募集は労働契約締結申込みの誘引、学生の応募は契約締結の申込みであり、採用内定通知はこれに対する承諾で、学生側の誓約書などの提出と相まって、始期付解約権留保付の労働契約が成立していると判断しました。

これは、具体的には、学生側が、誓約書において、採用内定通知に示された解約事由について同意することによって、当該解約事由に基づく解約権が雇用者に留保されており、かつ、就労の始期が将来の一定期日(例えば、4月1日)に定められている、という労働契約が成立しているということを意味しています。つまり、採用内定により労働契約が成立している以上、その後の雇用者による一方的な解約は解雇にあたるため、内定取消しについては、解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されます。さらに、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効となります。

新卒者の通常の採用プロセスにおいては、労働契約締結のために採用内定通知以外の特別の意思表示をすることが予定されていないことが多く、上記事案と同様に、採用内定により始期付解約権留保付労働契約が成立していると考えることができます。

採用内定の取消し

このように、採用内定期間中は、雇用者に解約権が留保されており、内定取消しは、この留保された解約権の行使ということになります。通常は、採用内定通知や誓約書に明示された「取消事由」が生じた場合に、これに従って解約(内定取消し)が行われることになります。

もっとも、この解約権は、内定者に関して、採用内定後に必要な調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で設定されたものであることなどから、採用内定の取消事由は、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされており(前掲大日本印刷事件)、「取消事由」に明示されているからといって、いかなる解約権の行使も許されるわけではありません。

他方、「取消事由」の記載が部分的で不十分な事案についても、上記のような社会通念上相当な理由があれば、解約権の行使ができるとされています(電電公社近畿電通局採用内定取消事件(最二判S55.5.30民集34巻3号464頁))。

一般的な内定取消事由としては、成績不良による卒業延期、健康状態の著しい悪化、虚偽申告の判明、逮捕・起訴猶予処分を受けたこと(前掲電電公社近畿電通局採用内定取消事件)などがあります。しかし、前述の通り、内定取消しの適法性は、当該事案の具体的な事実に即して、解約権留保の趣旨と目的に照らし、解約権の行使が権利濫用にあたらないかを個別に判断することになります。

違法な内定取消しがなされた場合

違法な内定取消しがなされた場合、その内定取消しは無効となりますから、労働者は、雇用者に対し、従業員としての地位があることの確認と働くことのできない期間の賃金の支払いを請求することができます。 また、違法な内定取消しは、債務不履行(誠実義務違反)または不法行為(期待権侵害)にあたるとして、損害賠償請求が認められることがあります(前掲大日本印刷事件、インターネット総合研究所事件(東京地判H20.6.27労判971号46頁)など)。

この記事の執筆者

勝浦敦嗣弁護士

勝浦 敦嗣弁護士

弁護士法人勝浦総合法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録。大手企業法務事務所、司法過疎地での公設事務所勤務を経て、現在、東京と大阪で弁護士11名が所属する勝浦総合法律事務所にて、労働事件を中心に取り扱う。

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