内定承諾書提出後の辞退について

内定承諾書を提出した後に辞退はできますか?

採用内定の法的性質

採用内定の法的性質については、「どのような場合に内定取消し? 違法な内定取消しとは」で説明したとおり、始期付解約権留保付労働契約であると理解されています。そして、労働契約については、労働者側からは、いつでも解約できることとされています。

民法627条1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

したがって、内定者から会社に対し、内定辞退をすることは原則としていつでも可能ということになります。
会社側としては、せっかく費用と時間をかけて選考した内定者に一方的に内定辞退をされるのは痛手ですが、内定辞退を拒んで入社させることはできません。

内定辞退に対する損害賠償請求

では、内定辞退をした内定者に対し、選考費用や機会損失などについて損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか。
実際に、会社が内定辞退者に対して、採用費用などの損害賠償を請求した裁判例があります(東京地裁H.24.12.28)。この事件で、裁判所は以下のように判断しました。

「入社日までに上記条件成就を不可能ないしは著しく困難にするように事情が発生した場合、原告(=内定者)は、信義則上少なくとも、被告会社に対し、その旨を速やかに報告し、然るべき措置を講ずべき義務を負っているものと解されるが、ただ、その一方で、労働者たる原告には原則として「いつでも」本件労働契約を解約し得る地位が保障されているのであるから(民法627条1項)、本件内定辞退の申し入れが債務不履行又は不法行為を構成するには上記信義則違反の程度が一定のレベルに達していることが必要であって、そうだとすると本件内定辞退の申し入れが、著しく上記信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り、原告は、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと解するのが相当である」

つまり、内定辞退に至る事情が生じた場合には、内定者は速やかにそのことを会社に伝えるべきですが、他方で、内定者は民法上いつでも労働契約は解約できるのだから、「内定辞退が著しく信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り」、損害賠償責任を負うという結論です。

例えば、合理的な理由もないのに、入社直前になって内定辞退を申し入れた場合などは、内定辞退者は会社に対して損害賠償責任を負う可能性があることになります。

損害賠償請求の範囲

ただ、仮に、内定辞退について損害賠償請求が認められるとしても、その賠償の範囲はごく限られたものになるのではないかと思われます。
上記のとおり、労働者は、民法627条1項により、いつでも退職を申し出ることができ、退職申し出から原則として2週間が経てば、労働契約は終了するのです。つまり、申し出から2週間後に社員が退社したとしても、それは適法な退職であり、そのことについて会社が損害賠償を求めることはできません。このこととの整合性を考えると、入社2週間以上前に内定辞退を申し出た場合には、内定辞退による損害の発生は認められない可能性が高いと思われます。

また、入社直前の内定辞退の場合であったとしても、入社後の適法な退職と比較して考えると、選考費用や機会損失についてまで損害賠償が認められる可能性は低いでしょう。もっと早く内定辞退を申し出ていれば不要であったはずの入社時のガイダンスのための施設費用、不要となった備品の費用などの一部については認められる余地があると思われます。

会社としても、内定辞退者に対して損害賠償請求を行うよりも、採用のミスマッチが事前に防げたと前向きにとらえ、次の採用にリソースを割くのが合理的かと思われます。
その意味で、実際に会社が内定辞退者に対して損害賠償請求を行う事案というのは限られます。上記裁判例も、会社から裁判を起こした事例ではなく、内定辞退者が会社に対して、内定辞退を強要されたことの損害賠償を求めた事案に対して、会社が内定辞退の損害賠償の反訴を行った事例となります。

この記事の執筆者

勝浦敦嗣弁護士

勝浦 敦嗣弁護士

弁護士法人勝浦総合法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録。大手企業法務事務所、司法過疎地での公設事務所勤務を経て、現在、東京と大阪で弁護士11名が所属する勝浦総合法律事務所にて、労働事件を中心に取り扱う。

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