退職時の法的な注意点について

退職届の種類

退職には、(1)労働者からする労働契約の解消(辞職)(2)労働者と使用者とが合意して労働契約を終了させる場合(合意解約)があります。

退職したいと考えた場合に使用者に提出する書類が「退職願」であれば(2)合意解約、「退職届」であれば(1)辞職 、などと言われることがありますが、実社会ではあまり区別せず用いられることも多々あります 。

(1)と(2) の大きな違いは、労働者が退職の意向を撤回できるかどうかです。(1)辞職の場合には、使用者に到達してしまうと、基本的に退職を撤回できないと解されていますので、注意が必要です。
他方、(2)合意解約の場合には、退職願が使用者に到達しても、使用者がこれを承諾して合意が成立しない限り、退職の効力が生じません。

なお、本意ではなく脅迫されたり、騙されたりして(1)辞職として退職届を提出させられた場合であれば、その退職届を取り消し たり、無効であると主張できる可能性もあります。その場合、疑問をも持ったら、できるだけ早く使用者に対して本意ではなかったという意思を示しておきましょう(メールなど証拠を残すようにしましょう)。

退職妨害への対応~労働者は退職の自由がある

退職妨害のトラブルとは、労働者が仕事を辞めたいという意思を示しているのに、使用者がこれを認めないケースを言います。単に「辞めてはダメだ」と言うだけではなく、「退職して代わりの人員を手配する分の損害について損害賠償請求をする」「代わりの人員を自分で責任をもって 確保するまでは退職を認めない」など、様々な手口が用いられることがあります。

人手不足の影響もあり、近年この退職妨害トラブルは、相談が増加しています。いわゆる正社員からもこの相談はありますが、とりわけ学生アルバイトからはこの退職妨害の相談が多く寄せられます。

最初に確認すべき点は、あらゆる雇用形態を問わず、労働者には仕事を辞める(退職する)自由がある! ということです。日本国憲法は職業選択の自由(憲法22条1項 )を認めているので、他の職業を選択する前提として、今の仕事を辞める自由が保障されていると考えられています。

辞めるにはどうすればいいか?

具体的な退職手続として民法が定めているのは、「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」(民法627条1項)という点です。
要するに、労働者は、使用者に対して、 2週間前に通知をすれば退職できるのです 。(※1)

なお、就業規則等で2週間より長期間の予告期間を定めているケースについては、この予告期間をどのように考えるのか判例や学説でも考え方は確立していません(2週間以上の予告期間を定めた規定は無効と考える立場も、1ヶ月程度であれば有効であると考える立場もあります)。

少なくとも、憲法で認められた退職する自由を不当に制約する期間の合意は効力を有しないと考えられますので、まずは就業規則の規定を気にせず退職の意向を使用者に伝えるようにしましょう。

2週間も待たずに退職したいケース

まず、労働基準法15条2項により、労働契約締結時に書面で提示された労働条件と相違する労働条件で就労を強いられていたら、即時に契約を解除できますので、2週間待たずに退職できます。
なお、使用者が労働契約締結時に書面で労働条件の明示(労働基準法15条1項)を果たしていない場合についても、同様に労働者が即時に契約を解除できるという考え方も有力です。

また、勤務期間中に取得していなかった有給休暇があれば、これを利用してから退職しましょう 。(※2)有給休暇の残日数を確認して、残りの有給休暇を全て使用し終わった時期に退職すると書面で通知しておけば、2週間待たず(しかも給与をもらいながら)退職ができます。

注意!労働契約に契約期間が定まっている場合

注意しなければならないのは、労働契約に契約期間の定めがある場合です。その場合、契約期間満了時に退職するのであれば、問題ありません。悩ましいのは、契約期間の途中で退職したい場合です。

この場合、民法628条は退職には「やむを得ない事由」が必要であるとしています。問題は、どういったケースで「やむを得ない事由」が認められるのかということです 。
例えば、よくトラブルがある学生アルバイトの場合、就労を続けることで本業である学業に支障が出るような事情があれば、使用者は学生であることを把握して採用しているのですから、「やむを得ない事由」が認められると考えられます。

また、契約期間の初日から1年を経過していれば、労働者はいつでも退職できるとされているため(労基法137条)(※3)、こういったケースでは自由に退職できますので、この点もご注意下さい。

自己都合退職or会社都合退職

退職するときに、いわゆる自己都合退職か、会社都合退職かでトラブルになるケースがあります。
最終的に退職届などを労働者が提出したケースであっても、使用者から退職勧奨を受けるなど働きかけがあってこれに応じたのであれば、会社都合退職となります。

自己都合退職とされてしまう場合、退職金の支給額に差異が生じる不利益(自己都合退職の場合には退職金受給額が少なくなるケースが多い)がありえます。

また、離職票(ハローワークに提出するもの)や退職証明書において自己都合退職とされてしまうと 、失業保険失業給付で不利な扱いを受けてしまいます(自己都合退職の場合には、受給開始までの期間や受給可能期間が不利になります)。この点については、離職票などの記載をきちんと確認して、間違っていたら訂正を求めましょう。

退職時の確認事項

入社して一定期間経過した場合、退職金が支払われるケースがあります。退職金の有無・金額は法律には定めはなく、個々の労働契約や就業規則(退職金規定)などで決められるものです。うっかり退職金をもらい忘れたということのないように、退職前に確認をしてみましょう。

また、賞与も退職時に受給できるかどうか、予め確認しておきましょう。退職金と同様に、賞与も法律に定めはなく、個々の労働契約や就業規則(退職金規定)などで決められています。賞与については、算定期間(どの就労期間に対応するのか)や、 在職要件(支給時期に在職していなければ受給できない)の定めがあるかどうかをきちんと確認し、それを踏まえて退職時期を決めるとよいでしょう。

※1:民法627条2項では、純然たる月給制賃金の場合は解約は翌月以降に対してのみできるとされ、当月前半に予告することが要求されています。

※2:退職の意向は、使用者に対して口頭で伝えるのが社会儀礼かもしれませんが、退職妨害などで脅かされているケースでは、口頭できちんと退職の意向を伝えるのが困難なことも珍しくありません。そういった場合など、メールなどによる伝達方法もありうるでしょう。

※3:ただし、労基法137条は専門的な知識、技術または経験を有する労働者及び満60歳以上の労働者については、適用されないとしていますので、注意が必要です。

この記事の執筆者

嶋﨑 量弁護士

嶋﨑 量(しまさき ちから)弁護士

日本労働弁護団事務局長。ブラック企業対策プロジェクト事務局長。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。 神奈川総合法律事務所所属。働く人の権利を守るために幅広く活動している。共著に「裁量労働制はなぜ危険か」(岩波ブックレット)、「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、「企業の募集要項、見ていますか?-こんな記載には要注意!-」(ブラック企業対策プロジェクト)、「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A」(LABO)など。

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