解雇の金銭解決制度について
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解雇の金銭解決制度とは?
解雇の金銭解決制度とは、解雇をめぐる争いが発生した際に、使用者が労働者にお金を支払ってその紛争を終了させる制度を言います。現在の日本には、解雇をめぐる紛争を金銭を支払って終了させる「制度」はありません。
ここで「制度」とカギかっこでくくったのは、制度はないけれども、実際には解雇をめぐる紛争で使用者がお金を払って解決するということはよくあるからです。ただ、そうしたことを「制度」として定めている法律はないのです。
賛否は分かれる
このような解雇をめぐる紛争をお金の支払いで解決しようというやり方を、法律上の制度とするかどうかについては、賛否が分かれています。制度を導入しようと推進するのは、主に経営者側に多くいます。他方、反対するのは労働者や労働組合です。
賛成派の理由は、金銭解決制度を導入すれば、柔軟な雇用調整ができるというものです。また、賛成派の理由には、現実に解雇をめぐる争いが発生した場合、金銭で解決している例が多いため、それを法制度にしてもいいじゃないか、というものもあります。他にも、中小企業の労働者などは裁判で争うお金がないから不当な解雇をされたら泣き寝入りになるが、金銭解決制度があれば救済されるというものもあります。
反対派の理由は、解雇が起きた場合、労働者は復職が選択できるが金銭解決制度はお金さえ支払えば企業から労働者を追い出せることになる、というものがあります。また、どんなに不当な解雇をしても、お金さえ払えばいいとなると、モラルハザードが起きるというものもあります。他にも、現在、当事者が合意すれば金銭解決が事実上行われているのだから、あえて法制度にする必要はないというものもあります。
解雇の金銭解決制度の分類
解雇は自由にできませんが、解雇が有効か無効かの判定するのは、最終的には裁判所がすることになります。そのため、解雇の金銭解決制度にも判定の前か後かによって種類があります。
事前型
裁判所の判定が出る前でも、一定の金銭を支払うことで解雇をめぐる紛争は終了するというものです。しかし、これは労働者や労働組合などから強い反対があります。これは先の反対派の理由の一つであるモラルハザードが起きるからです。
たとえば、どうしようもないセクハラ社長がいたとして、女性従業員にセクハラをしたところ、その女性従業員に抗議され、腹いせに解雇をしたとします。この場合、会社はお金を払えばその女性従業員の仕事を奪うことができることになります。
そのため、解雇の金銭解決制度を導入することについては賛成でも、この事前型を提唱する人はほぼいません。いたとしても、労働法をよく知らない人くらいです。
事後型
裁判所が解雇を無効と判定した場合に、金銭の支払いさえあれば復職ではなく退職扱いにできるという制度です。裁判所の判定を経るので、結局、裁判に要する時間が必要となり、賛成派の理由の1つである裁判費用を出せない中心企業の労働者が救済されるというものは、ここでは通用しなくなります。
事後型については、金銭解決を選択できる権利を、使用者にも与えるか労働者だけに与えるかで議論があります。
相場があって、ないようなもの
金銭解決制度を仮に導入するにしても、いくら払わせられるかという問題があります。これについては、実務的な相場は「あって、ないようなもの」と言われています。それは、現在の解雇をめぐる争いで支払われる「解決金」を決める要素が、事案によってまちまちであり、特に基準がないからです。実務的には、勤務期間やその労働者の給与額などが影響しますが、何より会社の「懐具合」も大きな要素ですし、労働者の復帰の意欲も大きな要素です。これを数値化しようとしても、実際、無理な話です。
2015~2017年にかけて、政府は「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催し、解雇の金銭解決制度の是非を検討した際に、「相場」をさぐろうとした形跡があります。しかし、名だたる学者が挑戦したようですが、いずれも「相場」を示せるようなものにはなりませんでした。
日本の雇用政策の根幹となるもの
日本では、労働者の生活を脅かすことになる解雇は、使用者が自由に行うことはできないとして、判例が確立されてきた歴史があります。また、その判例を法律にした労働契約法も制定されました。しかし、実際には不当解雇は世の中に横行しているのも事実です。
解雇の金銭解決制度を法律で導入する場合、不当解雇が横行する現状を改善する方向へ向かわせるのか、それともそれに拍車をかけてより悪い方向へ向かわせるのか、そこを見極める必要があるものと思われます。
これは我が国の雇用の在り方、雇用政策の根本に関わる問題なのです。