試用期間の延長について

試用期間を延長することは可能ですか?

就業規則や雇用契約などに「試用期間を延長する場合がある」などの定めがあり、延長の理由に合理性がある場合であれば、延長することは可能です。もっとも、当初の期間を含めておよそ1年以内が上限と考えられています。

試用期間を延長するための要件

試用期間の延長については、法律に特段の定めはないため、原則として、当事者間の合意によることになります。しかし、試用期間中は、雇用主に契約関係を解消する権利が留保された状態であり、また、一定期間は最低賃金法の適用がない(最低賃金法7条2号)など、労働者は不安定な地位に置かれています。このため、無制限に延長を認めるべきではありません。

そこで、原則として、「就業規則や雇用契約書などに延長の可能性およびその理由、期間などが明記されていない限り、試用期間を延長することはできない」と考えられています。

また、就業規則などに上記のような定めがある場合でも、会社としては、試用期間内に本採用するかどうかを判断することが原則となるため、自由に延長することはできず、延長するためには合理的な理由が必要であるとされています。なお、就業規則などに定めがなくとも、労働者との間で個別に合意がなされれば、試用期間の延長は可能であるという見解もあります。 しかし、雇用主との力関係からすれば、労働者が延長の申し出を断るのは困難と考えられるため、労働者が心から納得し、真摯な合意をすることが必要です。労働基準法93条により、その合意自体が無効とされる可能性もあります。

延長の上限

試用期間の長さについても、法律の定めはありません。しかし、上記のように、試用期間中の労働者は不安定な立場に置かれています。このため、労働者が適格かどうかなどを判断するのに必要な合理的な期間を超えた長期の試用期間の定めは、公序良俗(民法90条)に反するとして、無効とされることがあります(ブラザー工業事件(名古屋地判S59.3.23労判439号64頁))。当初の期間を含めておよそ1年以内が上限と考えられています。

どのような場合なら延長の理由に合理性があるといえるか

実質的な勤務期間が短く、試用期間だけでは労働者が適格かどうかなどを判断する材料が不足する場合

例えば、試用期間中に労働者が急病などによって一定期間休暇を取ったとします。この場合は、試用期間の終了時に、雇用主が、労働者の適格性などをより正確に評価・判断する、という試用期間の目的を達成することができないため、延長する理由に合理性があるといえます。

試用期間の終了時において、本採用を拒否(解雇)できる労働者について猶予する場合

試用期間の終了時において、職務に不適格であると判断された場合でも、

  • 本人の事後の態度によっては登用する
  • 配置転換などの方策により適格性を見いだすために、解雇を猶予する

などによる試用期間の延長は、労働者に対して恩恵をもたらすことから、延長する理由に合理性があると判断された裁判例があります(大阪読売新聞社事件(大阪高判S45.7.10労民集21巻4号1149頁)、雅叙園観光事件(東京地判S60.11.20労判464号17頁))。

試用期間の終了時において、本採用がためらわれる十分な理由が認められ、選考の期間を必要とする場合

ただちに職務不適格とは判断できないが、適格かどうか疑問があるなどの理由で試用期間を延長した場合、延長期間中に、不適格と断定できる新たな事実が生じなければ、結局社員登用しなければなりません。延長の理由とされた事実のみに基づいて解雇することは許されないのです(前掲大阪読売新聞社事件)。

試用契約を結んだ際に予想しなかったような事情により、適格性などの判断が適正にできない場合

上記の場合、具体的観察と判断のための時間などを必要とするため、延長の理由に合理性があるといえるとした裁判例があります(上原製作所事件(長野地諏訪支判S48.5.31判タ298号320頁))。

この記事の執筆者

勝浦敦嗣弁護士

勝浦 敦嗣弁護士

弁護士法人勝浦総合法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録。大手企業法務事務所、司法過疎地での公設事務所勤務を経て、現在、東京と大阪で弁護士11名が所属する勝浦総合法律事務所にて、労働事件を中心に取り扱う。

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