パート・アルバイトの雇用契約書について

パート・アルバイトでも雇用契約書を取り交わす必要はある?

いわゆる正社員とは異なる雇用形態である、パート(パートタイム)やアルバイトと呼ばれる雇用形態で働く方が増えています。パート(※1)やアルバイト(※2)として働く場合、いわゆる正社員の場合以上に、どういった労働条件で働くのか(給与額・勤務時間・勤務日数・契約期間など)、口頭で説明があっただけとか、口頭でもはっきりと説明がないなど、あいまいな状態で働き始めてしまうことが原因となるトラブルが多く見られます。

本来、使用者(雇い主)は、労働者に対して、重要な労働条件を書面(「労働条件通知書」などと言われます)に記載して手渡すことが法律上要求されています(労働基準法15条1項)。要するに、書面で労働条件を渡さないのは違法となるのです。しかも、この場合、使用者は30万円以下の罰金という刑事罰まで予定されています(労働基準法120条1号)。(※3)

そして、これは雇用形態がいわゆる正社員であっても、パート、アルバイト、派遣などでも同じです。人を雇う場合、全ての労働者に対して、労働条件を記載した書面を労働者に交付しなければならないというのが法律で決まったルールなのです。

なぜこんな規定があるの?

厚生労働省が2015年8月下旬から9月にかけて、アルバイトを行った経験を有する大学生、大学院生、短大生、専門学校生1000人に実施した意識調査によると、58.7%もの方が、労働条件を記載した書面(労働条件通知書等)を交付されていないと回答しています。また、労働条件について、口頭でも具体的な説明を受けた記憶がないというアルバイトの方が19.1%もいました。そして、経験したアルバイト延べ1961件のうち48.2%(人ベースでは60.5%)に労働条件等で何らかのトラブルがあったと回答しています。トラブルの中では、シフトに関するものが最も多かったということです。詳しくは「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について」(外部サイト)でご確認ください。

法律が、働き始めるときに労働条件を明確に書面で形に残しておくように要求している狙いは、働き始めた後で、当初に約束した労働条件についてトラブルが起きることを防止するためです。実際に、厚生労働省の調査でも、アルバイトの方の半数近くがトラブルを経験していますが、働き始める時点で、労働条件がしっかりと決まっていれば、後からトラブルになることはなかったケースも多かったでしょう。

例えば、一番多かったシフトに関するトラブルも、明確にシフトの入り方や決め方が決まっていれば、トラブルを事前に防ぐこともできたはずです。法律は、働き始める前に、きちんと書面に労働条件を定めることで、後から「言った、言わない」と労働条件についてトラブルになることを防いでいるのです。ですから、働き始めるときに交付された労働契約書はとても重要です。きちんと保管しておきましょう。

書面に記載しなければいけない項目は?

労働契約の中でも重要な6項目について、書面に記載して労働者に渡すことが求められています(労働基準法施行規則5条)。

  1. 労働契約の期間(労働契約の期間はいつまで続くのか)

  2. 有期労働契約が更新される基準

  3. 就業の場所及び従事すべき業務

  4. 労働時間に関する事項

  5. 賃金に関する事項

  6. 退職(解雇)に関する事項

また、パートタイム労働者については、上記の労働基準法15条1項に基づく労働条件の明示に加えて、パートタイム労働法6条により、さらに明示事項が追加されています。具体的には、昇給、賞与、退職金の有無です(パートタイム労働法施行規則2条)。このパートタイム労働者に対する追加規制も、事前に紛争の予防の観点から書面による明示が求められているもので、狙いは同じです。

他方で、以下の事項については、使用者は書面ではなく口頭での通知で足りるとされています。とはいえ、口頭での説明では紛争が起きやすいのは間違いありません。説明を受けたときに大切なことだと思ったら、きちんと書面に残すように依頼してみるとよいでしょう。

  1. 昇給に関する事項

  2. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払の時期に関する事項

  3. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項

  4. 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項

  5. 安全・衛生に関する事項

  6. 職業訓練に関する事項

  7. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

  8. 表彰、制裁に関する事項

  9. 休職に関する事項

※ただし、パートタイム労働者については、上記の通り(1)(2)(3)の事項についても、パートタイム労働法で書面による明示が求められています。

労働契約の内容と食い違いがあったら?

とはいえ、実際には働き始めるまで書面が交付されないケースは珍しくありません。そういう場合は、労働者の側で、猶予期間を経ずに直ちに契約を解消できる(退職して新しい仕事を探してよい)ことは、知っておきましょう。労働基準法15条2項では、労働契約を直ちに解消できると定めています。退職まで、猶予期間を求められないというのがポイントです。

労働契約書の交付がない場合の対処法は?

求人票で約束されていた労働条件なのに、働き始めたら約束を反故にされるという相談は多く寄せられます(労働契約書の交付なし)。そういったケースでは、特段の事情がない限り、求人票で約束されていた労働条件を後から主張できる可能性があります。ですから、応募した際の求人情報は、きちんと保管しておきましょう。

この種の裁判例のリーディングケースである千代田工業事件(大阪高判平2.3.8)においては 契約期間の定めの有無に関して争われ、求人票の真実性、重要性、公共性等からして、求職者は当然、求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になるものと考えるし、通常、求人者も求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としているとして、求人票記載の労働条件は、当事者間でこれと異なる別段の合意をしたなど特段の事情がない限り雇用契約の内容になると判断されました。(※4)だからこそ、労働条件通知書だけでなく、応募した際の求人情報もきちんと保管しておきましょう。

まとめ

  • パート・アルバイトでも労働契約書を交付してもらえる
  • 労働契約書など書面を交付してもらえなかったら、パート・アルバイトでも交付を要求できる
  • 交付された書面は保管しておく
  • 書面が交付されなかったら、労働者は契約を直ちに解消できる(猶予期間不要)
  • 求人票など求人情報は保管しておく

※1:パートタイム労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)は、対象となるパートタイム労働者(「短時間労働者」)を「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い労働者」と定めています。例えば、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「パートタイム労働者」としてパートタイム労働法の対象となります。

※2:パートタイムとは異なり、アルバイトには法律的に正確な定義はありません。一般的には、本業(学業など)のメインが他にあり、これとは別に副業として就労している労働者を指すケースが多く見られます。

※3:労働契約法4条2項においても、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するもの」とされています。

※4:ただし、このような裁判例によっても、既に求人票とは異なる労働条件で「別段の合意」をしている求人詐欺事案は救済がされ難いというのが現状です。

この記事の執筆者

嶋﨑 量弁護士

嶋﨑 量(しまさき ちから)弁護士

日本労働弁護団事務局長。ブラック企業対策プロジェクト事務局長。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。 神奈川総合法律事務所所属。働く人の権利を守るために幅広く活動している。共著に「裁量労働制はなぜ危険か」(岩波ブックレット)、「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、「企業の募集要項、見ていますか?-こんな記載には要注意!-」(ブラック企業対策プロジェクト)、「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A」(LABO)など。

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