雇用契約書を作成すべき理由とは?

雇用契約書は必ず作成しなければならないのですか?

契約というものは、当事者双方の意思が合致すれば、つまり当事者間で合意が成立すれば、契約書が作成されなくても成立します。口頭やメールのやりとりなどでも契約は有効に成立するのです。これは雇用契約(労働契約ともいいます)についても同様であり、契約書を作成しなくても雇用契約は有効に成立することになります。

雇用契約書の作成は義務ではない

法律上も、雇用契約書の作成は義務付けられてはいませんが、労働契約法4条2項は「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。」と定めており、雇用契約書の作成が望ましいとされています。ただ、これはあくまで努力義務ですので、契約書を作成しなくても罰則などはありません。

労働契約法4条(労働契約の内容の理解の促進)

1.使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

2.労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

労働条件通知書の交付は必須

他方、雇用契約を結ぶ際、会社は従業員に対して、労働条件通知書を交付する義務があります。労働条件通知書は、雇用主が一方的に通知するものであり、従業員のサインや印鑑を必要としない書面となります。

労働基準法15条(労働条件の明示)

1.使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

2.前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

3.前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

つまり、雇用契約書を作成することは義務付けられてはいないが、労働条件通知書は交付する義務がある、ということです。

それでも雇用契約書を作成すべき理由

上記のとおり、法律上は、労働条件通知書を作成する義務はありますが、雇用契約書を作成することは義務付けられてはいません。それでも、雇用契約書を作成するほうが労使双方にとって望ましいと考えられます。
会社にとって従業員を雇うこと、従業員にとって就職することは、いずれにとってもとても重要なことがらです。生活の基盤となるという意味では、家を買う契約と同じぐらい重要な契約行為といえるでしょう。口約束で家の売り買いをする人がいないように、雇用契約についてもきちんと条件について合意して、その内容を書面に残し、将来争いが起きることを防ぐことは、双方にとって望ましいはずです。

なお、労働条件通知書と雇用契約書をわざわざ別に作成する必要はありません。労働条件通知書に従業員の署名捺印欄を設ければ、双方が合意したことが明らかになります。

労働条件通知書が交付されない場合

従業員として採用されたのに雇用契約書や労働条件通知書が交付されない場合、従業員はどうすべきでしょうか?
上記のとおり、労働条件通知書の交付は雇用主の義務です。とはいえ、特に中小企業の中には、口約束だけで採用して、雇用契約書や労働条件通知書を作成しない会社が散見されるのも事実です。

入社したばかりの会社に、正面から書面の作成を要求するのもなかなか難しい場合があると思います。採用の際のメールなどに条件が記載されているのであれば、そのメールも雇用条件についての立派な証拠となります。求人の条件なども証拠になりえますので、そういった資料を念のために残しておくことをお勧めします。

この記事の執筆者

勝浦敦嗣弁護士

勝浦 敦嗣弁護士

弁護士法人勝浦総合法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録。大手企業法務事務所、司法過疎地での公設事務所勤務を経て、現在、東京と大阪で弁護士11名が所属する勝浦総合法律事務所にて、労働事件を中心に取り扱う。

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