労働時間上限規制・サブロク協定の改正について

働き方改革関連法で何がどう変わったのか?

労働時間の規制に関するルールが一部変更されました。

まず、労働時間規制の原則は、1日8時間、週40時間です。また、1週間に1日の休日。これが大原則です。今回の改正では、ここには何の変更も加えられていません。もし企業が、1日8時間・週40時間を超えて、労働者に「残業」をさせる場合、または1週間に1回の休日に働かせる場合、何の取り決めもないのに働かせると犯罪になります(労基法119条1号)。

犯罪にならないように働いてもらうためには、労働者との間で協定書が必要になります。この協定書は、事業場に労働者の過半数を組織する労働組合がある場合は、その労働組合と、そういう労働組合がない場合は、過半数代表者と結ぶことになります。この協定書を締結して、それを労働基準監督署に提出すれば、その協定書に書いている範囲内で、労働者に残業をさせても例外的に犯罪にはなりません。

この例外を定めているのが、労基法36条であるため、これを36協定(サブロク協定)と呼んでいます。改正法では、この36協定を結ぶ場合に上限を設定しました。これまでも、告示という形で上限は定められていましたが、改正法で、これを法律の規制にしました。その内容は、時間外労働時間として1カ月45時間、年間360時間というものです。

もっとも、改正法以前にも、告示という形ではありながら、同様の規制はあったのですが、過労死や過労自殺などの問題が後を絶たなかったことは、周知のことと思います。その原因は、実は、この例外に、さらに例外を設けることが可能とされていたからなのです。これまで、例外の例外には、上限規制がありませんでした。ただ、例外の例外を使えるのは6カ月までという規制があったに過ぎません。そのため、1回の上限時間を160時間としようが、200時間としようが、違法にはなりませんでした。結果として、36協定の範囲内で働いても労災が起きてしまうという状況ができていたのです。

こうしたことも踏まえて、今回の改正では、この例外の例外に上限を設けました。まず、「例外の例外」は、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に労働させる必要がある場合に限って許されることとされ、最大でも6カ月までとされました。

そして、次の規制がかけられました。

  1. 年間での最大時間は720時間(時間外労働のみ・休日労働は含まず)

  2. 単月における最大時間数は100時間未満(時間外労働+休日労働時間)

  3. 2~6カ月の平均で80時間以内(時間外労働+休日労働時間)

もしこの規制に反すると、使用者には刑事罰(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられます。この固有の刑事罰も改正法で新設されたものとなります。ただ、1については、時間外労働は720時間までですが、別途休日労働をさせることができるため、それを含めると年間の最大は960時間まで制定可能となります。

ちなみに過労死ラインと言われる残業時間は、たとえば、脳・心臓疾患の場合は、1カ月当たりの残業時間が45時間を超えると、疾患の発症との関連性が強まるとされ、発症前1カ月間に100時間、発症前2~6カ月間にわたって1カ月当たり80時間となると、発症との関連性が強いとされます。したがって、上限が設けられたといっても、過労死ラインと同じ程度となりますので、長時間労働を防ぐための法規制としてはまだまだ道半ばと言っていいでしょう。

そのため、行政監督を行うにあたって策定された指針では、時間外・休日労働は最小限にするようにとか、臨時的に限度時間(1カ月45時間 、1年360時間)を超えて労働させる必要がある場合でも、それをできる限り具体的に定めなければならないとしたうえで、単に「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」などの理由では、恒常的な長時間労働を招くおそれがあるとして認められないとするなどしています。

この記事の執筆者

佐々木亮弁護士

佐々木 亮弁護士

東京弁護士会弁護士。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。ブラック企業被害対策弁護団代表。ブラック企業大賞実行委員。首都圏青年ユニオン顧問弁護団。民事事件を中心に取り扱う。また、労働事件は労働者側・労働組合側の立場で事件を取り扱う。

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